キンバ、海を渡る

大手ジーンズメーカーの商談室に通された時、そこで目にしたのは、テーブルの上に並べられた数々の日本製ジーンズでした。そのほとんどに我が社のミシン糸が使用されていることを伝えると、デザイナーがおもむろに電話をかけはじめ、ぜひ明日も時間を作って欲しいと伝えられました。翌日高級車が私のホテルに差し向けられ、連れていかれた同社の本部で待っていたのは生産のトップを務める人物でした。
彼の関心事は、なぜ日本のジーンズはこれだけの洗い加工をしていながら(ジーンズはダメージ加工をしてビンテージ感を出します)、縫い目やステッチの糸切れが起きていないのか、特に太い糸を使っているわけでもなく、むしろ自分たちが使用しているミシン糸より細い糸なのに・・・、そのノウハウを教えて欲しいと。我々が洗い加工のノウハウを話す知見もなく、また仮に知っていたとしてもお客様のノウハウを口外することはできないわけですから、ミシン糸の機能の説明に終始しました。当社としては日本の大手ジーンズメーカーさんからのご要望にお応えすべく、何度もテストをしていただきながら糸の改良や新商品の開発をしてきたのですが、ある意味でお客様から千本ノックの特訓を受けているうちに、気が付けば糸としても世界に通用する水準に引き上げて頂いていた、そういうことになろうかと思います。製造上の工夫や新素材の活用など、いくつかのノウハウもありますが、一番大切にしてきたことは、常々お客様からかけて頂いた次の言葉になります。
「アズマさん、我々は生産上のトラブルがあったときに、常にキンバミシン糸が一定の水準を安定的に維持していることを前提に、ミシンやほかの機材の調整をするのだよ。アズマさんが思っている以上に、それは重要なことなんだ」
この言葉はありがたくもあり、一方で、非常に気が引き締まる怖い言葉でもあります。この思いを先輩方から引き継ぎ、そして、次世代に紡いでいくことが我々の使命といえます


